MBSR(マインドフルネスストレス低減法)という言葉。聞いたことはあるけれど、
「どんな内容なんだろう…」
「どうやって行うんだろう…」
「どんなメリットがあるのか…」
このように思われる方も多くいます。
そこで今回は、あまり深く知られていないMBSRの内容を初心者にも分かりやすくご紹介していきます。
私は、
・マインドフルネス実践歴は4年
・専門家運営の心理学サイトのライター
・マインドフルネスを伝える活動
などを行っています。
こうした経験と知識からお伝えしていきますね。
Contents
MBSRとは
8週間の瞑想プログラム
MBSR(マインドフルネスストレス低減法)とは、以下のようなものです。
8週間のエビデンスに基づくプログラムであり、ストレス、不安、うつ病、痛みのある人々をサポートするためのマインドフルネストレーニング。
MBSRの正式名称は「マインドフルネスに基づくストレス低減法(mindfulness-based stress reduction)」です。
もともとは、医療の世界で用いられていました。
- 痛み
- 不安
- ストレス
などを緩和するのが主な目的でした。
そこから広がって、MBSRはビジネス・スポーツ・メンタルヘルスの予防など人生のあらゆる分野で活用されています。
開発者
MBSRは1979年にマサチューセッツ大学医学大学院教授のジョン・カバット・ジン博士が開発しました。
カバット・ジン博士は仏教瞑想を学び、そこから研究を重ね、宗教色をなくした形で、マインドフルネスを提唱しました。
そして、マインドフルネスを中核とした瞑想プログラムとしてMBSRを開発したのです。
ルーツ
MBSRは日本の禅がルーツになっています。
カバットジン博士は、
- 曹洞宗の開祖である道元
の思想がベースになっていると話しています。また、カバットジン博士は、1960年代初めに著名な禅師である、
鈴木大拙(すずきたいせつ)
から影響を受けました。
その後、鈴木俊隆著「Zen Mind, Zen Mind, Beginner’s Mind(初心禅心)※邦訳は禅マインドビギナーズ・マインド」に出会い、本格的に瞑想の探求を始めました。
このように、マインドフルネスの生みの親であるカバット・ジン博士は、「禅」に大きな影響を受けているのです。
マインドフルネス瞑想のやり方
MBSRのプログラムは以下の内容で行います。今回は、ジョン・カバット・ジン(2007)「マインドフルネスストレス低減法」よりご紹介していきます。
オリエンテーション
まずはオリエンテーションで、
- 「マインドフルネスの基本姿勢」
- 「プログラムの概要」
を説明していきます。
MBSRが開発されたストレス・クリニックでは、瞑想トレーニングを、
・1日45分~1時間
・週に6日間
・最低8週間
行います。
また、週に1回グループで瞑想体験での気づきなどをディスカッションしていきます。
マインドフルネスの基本姿勢としては以下の記事をご覧ください。
1週目〜2週目まで
最初の2週間は、以下の3つの瞑想を行います。
・ボディスキャン45分
つま先から頭の天辺までスキャンするように、体の部位ごとの感覚に注意を向ける瞑想です。
体のパーツごとに観察することで、普段気づかないような体の不快感や違和感に気づくことができます。
仰向けになって行うのが一般的ですが、椅子に座って行うこともできます。
・静坐瞑想10分以上
座って呼吸に注意を向ける瞑想法です。
やり方を簡単に解説すると、
- 自然な呼吸に注意を向ける
- 雑念が浮かんだら、それに気づく
- ゆっくりと注意を呼吸に戻す
これをずっと繰り返すのが静坐瞑想になります。
・ふだんの瞑想トレーニング 1回以上
日常生活の活動を1つ選んで、マインドフルに行っていきます。
例えば、
・歯磨き
・食事
・通勤・通学
などを一つ一つの動作に注意を向けながら、マインドフルに行います。
私自身は、始めは歯磨きをマインドフルに行うようにしていました。朝一で行う活動なので、取り組みやすくてオススメです。
3週目〜4週目まで
3週目~4週目までは、ボディスキャンとヨーガ瞑想を1日おきに交互に実践します。
・ボディスキャン45分
ボディスキャンは最初の2週間と同じく、1日45分トレーニングしてきます。
・ヨーガ瞑想 一連のポーズ
ヨーガ瞑想とは、ヨガのポーズを取りながら、体の感覚に注意を向ける瞑想法です。具体的なポーズとしては、以下のものがあります。
基本的に横になって行う場合
※ジョン・カバット・ジン(2007)マインドフルネスストレス低減法 160-161pより引用
※ジョン・カバット・ジン(2007)マインドフルネスストレス低減法 162-163pより引用
基本的に立って行う場合
※ジョン・カバット・ジン(2007)マインドフルネスストレス低減法 164-165pより引用
※ジョン・カバット・ジン(2007)マインドフルネスストレス低減法 166-167pより引用
図の中で、できないポーズがあっても構いません。60~80%ぐらいの感覚でゆるく行いましょう。
また上図には載っていませんが、ポーズとポーズの間に休憩をはさみます。自分が楽な耐性で休憩をしてくださいね。
・静坐瞑想
呼吸に注意を向ける瞑想を15分~20分行います。
・ふだんの瞑想トレーニング 日記
この2週間では、毎日日記をつけていきます。
3週目は1日の中で嬉しかったこと
4週目は1日の中で嫌だったこと
以下のような表に書き出していきます。
※ジョン・カバット・ジン(2007)マインドフルネスストレス低減法 382-383pより引用
5週目〜6週目まで
5週目~6週目では、静坐瞑想とヨーガ瞑想を1日おきに交互に行います。
・静坐瞑想
1回45分の瞑想を行います。45分間座ったまま、呼吸に注意を向けつづけるというやり方もあります。
また呼吸以外の、体の感覚や音、感情などの集中してもOKです。
集中するものが何であろうと、注意を向けつづけます。そして、心がさまよった時に簡単に戻すことができれば、その方法は間違いではありません。
・ヨーガ瞑想
3週目~4週目と同じく、一連のポーズを行っていきます。もし、ヨーガできない場合は、代わりに歩行瞑想やボディスキャンを行っても大丈夫です。
・ふだんの瞑想トレーニング
マインドフルネスを6週間も続けていると、瞑想スケジュールを自分で決めたくなるかもしれません。
MBSRでは、8週間目が終わるころまでに、「自分の体と能力に見合ったメニュー」を作れるようになることが目標です。
そこで、
・ふだんの瞑想トレーニング
・正式な瞑想トレーニング
を組み合わせて、自分に合ったメニューを作って実践してみましょう。
7週目
7週目は、
・静坐瞑想
・ヨーガ瞑想法
・ボディスキャン
を組み合わせた1日45分間の総合トレーニングを行います。
組み合わせはあなたの自由です。25分の静坐瞑想と20分のボディスキャンを行ってもいいですし、15分のヨーガ瞑想に、30分の静坐瞑想を組み合わせても構いません。
さまざまな組み合わせを試しながら、自分に合ったメニューを探してみてください。
8週目
8週目は、今までの瞑想法を好きに選んで行います。自分の状態に合わせて、ボディスキャンだけ行ってもいいですし、複数のトレーニングを組み合わせても構いません。
ボディスキャンは、
・病気で寝込んだとき
・体の痛みがひどいとき
・眠れないときに
に効果的です。
またヨーガ瞑想は、
・疲れたとき
・活力が出ないとき
・体が硬くなっている時
に行うとかなり改善されます。
もちろんを効果を求めることは本質的ではありませんが、自分の状態に合わせて実践することも大切です。
例えば体の状態が優れない場合、瞑想に集中することが難しくなります。
そこで、その時々の状態に合わせた瞑想を行うのが重要なのです。
MBSRは8週間で終わりになりますが、これからが本当マインドフルネス実践の始まりです。あなたの実生活でマインドフルネスな感覚を意識し、自分自身で集中力を磨いていくのです。
MBSRはあくまでも入口に過ぎず、プログラム以降からが本番だと思ってくださいね。
MBSRの効果
生活の質(QOL)が上がる
伊藤ら(2017)[1]は、MBSRが生活の質(QOL)にどのような影響を与えるかを調べました。
研究は、心身に疾患のある15名の参加者を対象に行いました。
この研究では、QOLの指標となる「SF‒36v2」を用いて調査を行いました。その結果が以下のグラフです。
このように、すべての項目でMBSRを行った後の方が、グラフが伸びていることが分かります。
ただ、この研究の懸念点は、MBSRはグループディスカッションが講義に置き換えられていることです。カバット・ジン博士はグループでの議論はMBSRの重要な要素として挙げています。
ストレス・クリニックで行われているものと、同じMBSRではないことは留意しておきたいところです。
怒りが減る
マインドフルネスで無駄な怒りを抑えられることが示唆されています。
金(2015)[2]は、学部生209名を対象に、「ディタッチドマインドフルネス」が「怒り反すう」に与える影響を調べています。
それぞれの意味としては以下の通りです。
・ディタッチドマインドフルネス
⇒自分の状態を一歩引いて眺めている状態
・怒り反すう
⇒過去の体験を思い出し、怒りを起こしている状態
結果、以下のようになりました。
このように、ディタッチドマインドフルネス得点が高いほど、怒り反すうが下がっていることが分かります。
自分眺めることは、怒りを想起させる傾向を和らげてくれると考えられますね。
不安が下がる
二宮ら(2019)[3]はMBSRと認知行動療法を組み合わせた「MBCT」がどこまで不安を下げるかを調査しています。
参加者は、
・パニック障害
・広場恐怖症
・社交不安障害
の基準を満たしている20〜75歳で、40人集められました。
40人の参加者は、それぞれ以下の2つのグループにランダムに20人ずづ分けられました。
・MBCTグループ
・コントロールグループ
コントロールグループは、MBCTを行わない場合と比較するための集団です。
プログラムは毎週2時間のセッションで構成され、合計8セッションでした。プログラムでは、参加者は以下のマインドフルネスの実践を行いました。
・レーズンエクササイズ
・ボディスキャン
・静坐瞑想
・歩行瞑想
・3分間の呼吸法
・認知的アプローチ
を学びました。
さらに、宿題として毎日のマインドフルネス瞑想をトレーニングし、毎日の練習をメモします。
日記には、トレーニングした時間と瞑想の種類についての書いてもらいました。
8週間後の結果は以下の通りです。
このように、MBCTの群のほうが、不安感が下がっていることが分かります。
MBSRに認知行動療法を組み合わせることで、不安感が減ると言えそうです。
ただ、もちろんMBSRを行うだけでも、不安が低下するという報告はいくつもなされています。
そのため、必ずしも、MBCTでなければ不安が低下しないというわけではありませんので、その点はご留意ください。
HSPに与えるのMBSRの効果
Soonsら(2010)[4]の研究では、MBSR(マインドフルネスストレス低減法)の8週間プログラムが、HSPにどのような心理的影響を及ぼすかを調査しました。
研究では、
- HSP傾向が高い47名を対象
- 1回2時間半のセッションを8回
行いました。
その結果、8週間のプログラム終了後に以下の効果が得られました。
・ストレスが減る
・対人不安が和らぐ
・マインドフルネスが高まる
・感情的共感が高まる
・自己成長主導性が高まる
・自己受容が高まる
・自己超越が高まる
stress (F = 94.11, p < .001),social anxiety (F = 86.89, p < .001), self-acceptance (F = 33.54, p <. 001), emotional
empathy (F = 21.25, p < .001), personal growth initiative (F = 10.25, p < .01), and selftranscendence (F = 14.04, p < .001).
上記の自己成長主導性は、「自分から率先して成長しようと」することを表します。
HSPの気質である共感力や自己超越(個人の境界線がなくなった感覚)などは、さらに向上しているもののストレスや対人不安は低くなっています。
つまり、HSPは繊細さのデメリットを払拭し、より気質の特徴を生かすことができると言えそうです。またプログラム終了後4週間継続して、効果が持続していることもわかりました。
MBSRを始めよう
今回は、MBSRの内容について深く解説していきました。
マインドフルネススキルを確実に高めたいという方には、とてもおススメできるプログラムだと言えます。
マインドフルネスの感覚を身に着けると、
・感情に流されにくくなる
・生活習慣が改善される
・人間関係に振り回されにくくなる
などのメリットがあります。興味がある方は、ぜひ一度体験してみてくださいね。
・MBSRの効果を深く知りたい
・瞑想のやり方を知りたい
・プログラムの内容を知りたい