マインドフルネスについて勉強していると、たまに耳にするのが、
「ラベリング」「実況中継」
という言葉。
なんとなくは知っていても、具体的な効果や目的まで理解している人は少ないかもしれません。
そこで、今回はラベリング瞑想実践歴4年の私が、ラベリング瞑想について誰でもわかるように説明していきます!
Contents
マインドフルネスのラベリング(実況中継)とは?
今ここの体験を言葉にする
ラベリング瞑想は、今ここの体験を言葉にする瞑想法です。例えば、
- お腹が膨らんだら
⇒「膨らみ、膨らみ、膨らみ」 - お腹が縮んだら
⇒「縮み、縮み、縮み」 - 雑念が浮かんだら
⇒「雑念、雑念、雑念」 - 不安が浮かんだら
⇒「不安、不安、不安」 - 手を伸ばす場合は、
⇒「伸ばす、伸ばす、伸ばす」
などと心の中(場合によっては声にだしてもいい)で言葉にして確認していきます。
ラベリング瞑想は、欧米では「メンタルノーティング」の名前で知られており、ヴィパッサナー瞑想の1つとして世界に各地に広まっています。
マハーシメソッドから生まれた実践
マハシーメソッドは、ミャンマーの瞑想指導者マハシ・サヤドーが考案した瞑想法です。
欧米やアジアのヴィパッサナー瞑想に多大な影響を与えています。
マハシーメソッドは、座る瞑想では、呼吸するときにお腹の膨らみとへこみに意識を集中させながら、その自然な変化を観察していくのが最大の特徴です。
マハシー・サヤドーについて詳しく知りたい方は、下記を展開して参考にしてみてください。
マハーシ・サヤドーは1904年に生まれ、ミャンマーのセイックン村出身で幼少期から僧院で教育を受けました。若くして高度なパーリ語経典の教育を受け、ヴィパッサナー瞑想の修行を行いました。特に、「四念処経」の研究に熱心で、その理解を深めました。
サヤドーの指導のもとで育った僧院は繁栄し、彼は「マハーシ・サヤドー」として多くの人に知られるようになりました。
若い頃からヴィパッサナー瞑想を指導し、戦禍を免れたマハーシ僧院で弟子たちに教えを広めました。
1947年にはミャンマー首相に招かれ、瞑想センターの指導者となり、アジア諸国だけでなく、欧米にもヴィパッサナー瞑想を広めるために尽力しました。四念処の教えと共に、彼の名声は国際的に広がり、1979年には欧米に渡り、マサチューセッツ州に洞察瞑想協会(IMA)を設立しました。
この瞑想センターは、世界中から人々が集まる巡礼地となり、ヴィパッサナー瞑想の普及に大きく貢献しました。
ラベリング瞑想の効果
ラベリングは心理学の領域では、「感情ラベリング」という名前で研究が進められてきました。
今ここの体験や自分の動作を言葉にするラベリング瞑想とは少し意味がズレますが、”感情を言葉にする”という意味では同じなので、下記に研究をご紹介していきます。
感情を抑える働きがある
偏桃体とは簡単に言えば、
「感情をつかさどる脳部位」
のことです。
この部分が暴走すると怒りや不安感、強い欲望などかられ、人生でトラブルが多くなってしまいます。
心理学の研究によれば、感情ラベリングは、偏桃体を抑制する働きがあるようです。
吉村ら(2018)の研究[1]では、15人の被験者に、
- 嫌悪感をたらす写真60枚
- 普通の写真20枚
を見てもらい、脳の活動を調べました。参加者は、写真を見た後、その時の嫌悪感情を以下の条件で見てもらいました。
- 感情をポジティブに捉えなおす条件
- 感情をポジティブに捉えなおす+ラベリングする条件
- ただ観察する条件
結果を調べたところ、特に言葉でラベリングする条件では、扁桃体の活動が減少していることが分かりました。
ラベリングをすることが、普通の感情コントロール法よりも扁桃体の活動を抑えるのに効果的である可能性があります。
苦痛を減らす
Levy-Gigiら(2022)[2]の研究では、感情のラベリングのタイミングが苦痛の軽減にどのように影響するかをテストしました。
実験参加者は63人で、IAPS(国際情動写真システム)より、嫌悪感を大きく刺激する 60 枚の写真を見てもらいました。その後、
- 「恐怖」
- 「嫌悪」
など2つのラベルから、自分の感情を良く表していると感じるものを選んでもらいました。
それぞれの画像は 2 回提示され、1 回は感情ラベリングする、もう 1 回はラベリングせず普通に見てもらいベースラインの苦痛を測定しました。
この時、以下の3つの条件で被験者たちにラベリングを行ってもらいました。
- リアルタイムでラベリングする
- 直後にラベリングする
- 10秒後にラベリングする
結果、感情のラベリングがベースラインと比較して苦痛のレベルを有意に低減させることが分かりました。
また、タイミングの違いがその効果に影響を与えなかったとのこと。
ラベリングを実践する目的
雑念を生まれにくくする
言葉で今ここの体験をラベリングし続けることで、思考のリソースがラベリングの方向に注がれ、雑念や妄想が生まれにくくなります。
日本テーラワーダ仏教協会のスマナサーラ長老によれば、ラベリング(実況中継)について以下のように説明されています。
では思考を停止させます。どのような方法かというと「実況中継」です。言葉で自分がしていることを、感じている感覚を、実況中継するのです。実況中継すると、思考ができない状態になります。しかし頭はものすごく使っています。実況中継はかなり激しい脳の運動なのです。ヴィパッサナー瞑想とはこの実況中継をすることなのです。実況中継する際にひとつポイントがあります。思考が割り込めないように、かなり勢いよく、すき間なく実況中継することです。隙間で思考が漏れると、汚れになってしまいます。ですから言葉をつなげてください。
-アルボムッレ・スマナサーラ(2021)ヴィパッサナー瞑想 自分を変える気づきの瞑想法 サンガ p123より引用
ありのままに物事を見る場合、雑念のない集中した状態が必要です。しかし、1つのことに注意を向けようと思っても、雑念が湧いてしまうのが人間の性。
そこで、ラベリングをすることで今この瞬間の対象を認識しつづけ、雑念が生み出しにくくするわけです。
感情ラベリングの注意点
弱い感情をラベリングすると逆効果?
Levy-Gigiら(2022)同研究では、感情ラベリングの注意点も説明されています。
79 人の参加者を対象にした別の実験では、嫌悪感が低い画像に対しても調査を行いました。
その結果が以下のグラフです。
このように、高い嫌悪感をラベリングした場合には、苦痛のレベルが下がっていますが、低い嫌悪感をラベリングした場合には、苦痛のレベルが上がっていることが分かります。
ラベリング瞑想では、基本的に今強く感じる感覚や感情をラベリングしていきます。あまり感じない感情や弱すぎる感情を無理にラベリングしようとすると、かえってその感情を高めてしまうのかもしれません。
一方で、自分なりに「微妙に嫌悪感を感じる」などと精密にラベリングした場合、結果がどうなるか疑問が残るところです。
ラベリングの迷い
特に日常生活でのラベリング瞑想では、様々な動作にラベリングすることになります。
- 歩く
- 立つ
- 座る
- 食べる
- 歯を磨く
- 身体を洗う
など日常生活では複雑な活動もあれば、シンプルな活動もあります。
その中で細かい動作や動きなどをラベリングする際に、どんな言葉を使えば良いか迷ってしまう可能性があります。
例えば、私はドライヤーで髪を乾かすとき、なるべく実況中継しているのですが、今だにどんな言葉を使えばよいかわかりません。
今は「髪をかき分けている手の動きを、動かす、動かす、動かす」とかなりあいまいに実践中継しています(※誰かやり方を教えてください笑)
ラベリングに注意が行き過ぎる
また、ラベリングに注意が行き過ぎて、感覚を感じることをおろそかにしてしまう場合もあります。
ラベリングしなくては…と意気込みすぎると、本来の感覚を観察するという部分が薄れてしまう可能性があります。
するとマインドフルネスがうまく育まれない状態になるかもしれません。
あくまでもラベリングはマインドフルネスの補助ツールであり、本来は感覚を観察するということがメインであることを忘れないように注意する必要があるでしょう。
まとめ
個人的にはラベリング瞑想は、
- 意識を今ここに固定する効果がある
実感があります。
今ここを言葉にしないといけないので、瞬間瞬間「自分が何をしているのか」に強制的に意識が向くイメージ。
仏教の実践で言えば、賛否ある方法でありますが、マインドフルネスでメンタルを安定させる分には十分効果的な方法だと感じています。
・ラベリングとは?
・ラベリング瞑想は苦痛を減らす
・ラベリング瞑想と迷い