私たちは、時に自分自身に厳しく接してしまい、必要以上に自分を責めてしまうことがあります。自分を否定しつづけると、何もできなくなったような感じになり、無力感に苛まれるでしょう。
マインドフルネスでは、今この瞬間の体験に対して「評価判断をしない」「ジャッジしない」ことを大切にします。
自己批判をせず、ありのままの自分を認め、受け入れるためのもセルフコンパッションはとても重要です。
私自身もセルフコンパッションを学び始めてから、自分を責めることがかなり少なくなりました。今回は私の経験や知識から、セルフコンパッションの効果ややり方、トレーニング法を解説していきます。
Contents
セルフコンパッションとは何か
セルフコンパッションとは何かまずは定義からみていきましょう。
Neff, K. D. (2003)[1]によれば、セルフコンパッションは以下のように説明されています。
困難な状況において、自己に生じた苦痛をありのまま受け入れ、その苦痛を緩和し、幸せになりたいと願い、自己との肯定的な関わり方である。
やや難しい定義ですが、基本的には自分への思いやり、自分への慈悲という捉え方で良いでしょう。
慈悲から見るセルフコンパッションの意味
慈悲とは仏教用語で、以下の2つの意味があります。
慈(Mettā メッター)
思いやり、慈しみに気持ちを持つ
悲(karuṇā カルナー)
哀れみの気持ちを持つ、かわいそうだと思う。
仏教では、思いやりについて、苦しみやそれを引き起こす根源に気づき、その苦痛を緩和したいと心から願うことであると言われています。
この思いやりは何か特定の対象に向けるのではなく、「生きとし生けるものの幸せを願う心」のことを意味します。
セルフコンパッションは、自分自身を対象に取りますが、それはあくまでも1例であり、すべての生き物に対して慈悲を向けるという前提を持つことが大切です。
セルフコンパッションの3つの構成要素
セルフコンパッションは以下の3つの要素から成り立っています。
①自分への優しさ
②共通の人間性
③マインドフルネス
それぞれ詳しく見ていきましょう。
①自分への優しさ
自分への優しさとは、
自分には「ポジティブな面もある」ことを思い出し、自分に慈しみの気持ちを向ける
ことを意味します。
辛いことや苦しいことに直面した際は、短所や失敗だけでなく、自分の長所やうまくできた部分にも目を向けます。また大事な友人に接するように、
・自分に優しい言葉掛けをする
・自身を労わる行動をする
などが挙げられます。
哺乳類は、生まれつき思いやりを受け取る能力を持っているとされています。
脳は自分や他人を思いやるように設計されており、様々な固定概念によって、その機能うまく働かなくなっているのです。
自分への優しさを持つ意識することで、元来備わっているセルフコンパッションの力を引き出すことができます。
②共通の人間性
共通の人間性とは、
人はみな人生において困難や苦労を経験するものであると認識する。
ことです。
例えば、苦しい時に自分は無価値だと考えてしまうと、孤独感に苛まれてしまいます。
生きている以上、大なり小なり皆苦しみを抱えているのだと考えることで、苦痛を受け入れる姿勢が生まれます。
もちろん、これは人間に限らず、すべての生き物は苦しみを抱えていると考えても問題ありません。
③マインドフルネス
マインドフルネスは、
評価や判断せず、意図的に今ここに注意を向ける
ことです。
自分自身の苦しみに気づき、良い悪いといった判断をせずに、客観的に観察します。
不安、ストレス、悲しみ、恥などの感情を無理に抑圧することも過度に強調することもなく、ありのままにとらえる。
マインドフルネスの実践によって、私的な感情に囚われることなく、無条件の思いやりを自身に向けることができます。
「怠け」とセルフコンパッションの違い
自分への優しさと聞くと、どうしても「それは怠けることでは?」と考えてしまう人も多いかもしれません。
この違いを明確にしておかないと、かえって自己批判が強くなってしまう恐れがあります。怠けとセルフコンパッションの違いは以下の通りです。
・怠け
⇒やるべきことをやらないこと
・セルフコンパッション
⇒自分の状態を理解し、自分にとって必要なことをすること
このように怠けとセルフコンパッションは、真逆と言ってもいいほど意味が異なります。
怠けの場合は、誘惑に流されてやるべきことをサボってしまいます。未来の自分に対する思いやりがなく、あとになって後悔したり、自己批判に陥ることもあるでしょう。
一方で、セルフコンパッションは今の自分だけではなく、未来の自分に対する思いやりも含んでいます。例えば、自己批判をしていても、未来の自分にとってはメリットない、むしろマイナスであると知っていて、無駄に自分を批判したりしないのです。
- それは今の自分にとって必要かどうか
- また今の自分にできるのはどの程度か
を判断して、着実に自分にできることを行います。その結果、今の自分にとっても、未来の自分にとっても、また他人のとっても、社会にとっても良い行動を取ることができるのです。
セルフコンパッションの効果
それでは、セルフコンパッションにはどのような効果があるのでしょうか。
1.ウェルビーングを高める
水野ら(2017).[2]の研究では、関東圏の大学3校の大学生247名を対象に、セルフコンパッションがウェルビーイングにどのような影響を与えるかを調べました。
その結果が以下の図です。
クリフティーンネフ氏の著書の中でも、10年間の研究で、感情的ウェルビーングと人生の満足感を獲得する上で非常に有効であると述べられています。
2.ストレスが減る
今北ら(2018)[3]の研究では、介護職員194 名、訪問介護員 278名の 計472 名を対象にセルフコンパッションがストレスに与える影響を調べました。
研究では、燃え尽き症候群の3つの要素である
1.情緒的消耗感
⇒仕事にのめり込んで精神的に疲れ果ててしまった状態。
2.個人的達成感の低下
⇒仕事の質が下がり、達成感が欠如した状態。
3.脱人格化
⇒お客さんへの思いやりがなくなり、非人間的な対応をしてしまう状態。
に、「自己への思いやり」がどのような影響を与えるかを調査しています。
その結果、自己への思いやりを持つことで、視点の転換ができるようになり、辛い状況でも良い面を考えたり、自分を励ましたりできるようになりました。
この視点の転換が、情緒的消耗感と脱人格化にマイナスの影響を与えることが分かりました(情緒的消耗感⇒-.26*,脱人格化⇒-33*)。
さらに自己への思いやり自体が、個人的達成感を高めることもわかりました(41**)。
3.目の前の誘惑に強くなる
龍ら(2019)[4]の研究では、大学生 170名対象にセルフコンパッションが「学生満足的遅延」にどのような影響を与えるかを調査しました。
学業的満足遅延とは「試験に合格するなど将来の目標のために、今すぐ遊びたい!といった欲求を自制すること」を意味します。
研究の結果が以下の図です。
このようにセルフコンパッションが「自己効力感」と「自律的動機付け」につながり、学業的満足遅延を高めていことが分かります。
私自身もセルフコンパッションのトレーニングを行った結果、自分の弱さを受け入れられ、自己効力感が高まった印象があります。
またそのことで、目の前の誘惑にも負けにくくなりました。
セルフコンパッションを高めるトレーニング
それでは最後にセルフコンパッションを高めるトレーニングをご紹介します。
慈悲の瞑想を行う
セルフコンパッションを高める方法として、私が実践してもっとも効果を実感したものが、「慈悲の瞑想」です。
慈悲の瞑想とは、すべての生き物の幸福を願う瞑想になります。
具体的には以下の文章を心の中で唱えていきます。
私は幸せでありますように
私の悩み苦しみがなくなりますように
私はストレスなく穏やかでいられますように
私に智慧が現れますように
私は幸せでありますように私の親しい生命が幸せでありますように
私の親しい生命の悩み苦しみがなくなりますように
私の親しい生命がストレスなく穏やかでいられますように
私の親しい生命にも智慧が現れますように
私の親しい生命が幸せでありますようにすべての生命が幸せでありますように
すべての生命の悩み苦しみがなくなりますように
すべての生命がストレスなく穏やかでいられますように
すべての生命にも智慧が現れますように
生きとし生けるものが幸せでありますように
この文章を制限時間まで繰り返し唱えていきます。
継続して行うことで、慈悲の気持ちが育ち、思いやりや優しさが培われていきます。
マインドフルネス瞑想を行う
このブログのメインテーマなので、知っている人も多いと思いますが、「マインドフルネス瞑想」を行うことでもセルフコンパッションは育まれます。
マインドフルネス瞑想のやり方は簡単で、今この瞬間の体験に評価や判断せず、ありのままを観察することです。
座って目を閉じてもよいですし、日常生活のなかで気づきもって生活しても構いません。
簡単なのは、1日に1つマインドフルになって行う活動を決めて、それを瞑想にして行うことです。
- 歯を磨く
- 朝食を食べる
- 通勤・通学
などが挙げられます。
できるだけ1日の早い時間帯に起こる活動を選んだ方が良いです。
片足を上げたり、下げたりする時の刺激の変化を感じる。体重の重心が右から左へと移り変わるのを感じる。最もシンプルなのは、右、左、右、左とラベリングしながら、歩くことでもOKです。
大切なのは、その活動に意識を集中させることです。
慈悲深い存在をイメージする
セルフコンパッションのを高めるための、シンプルな方法は慈悲深い存在をイメージして、その存在から励ましの言葉をもらうことです。具体的な方法は以下の通りです。
- まずは静かな場所に座り、安心感を感じられる場所をイメージします。例えば森や川、実家のリビング、暖炉のそばなどです。できる限り具体的に、その場所の色や明るさ音や香りなども想像していきます。もしセルフコンパッションの実践で、不安感を覚えた時はこのイメージを思い出して、心と体をリラックスさせると良いでしょう。
- 次にあなたは無条件に受け入れてくれる、思いやりや強い慈悲を持った人物を思い浮かべます。おばあちゃんや母親、ガンジー、ブッダ、イエスなど自分が最も慈悲深いと思える人物を想像しましょう。必ずしも、人間である必要はありません。犬や猫などのペットでも良いですし、アニメのキャラクターや架空の存在であっても構いません。または、白い光といった抽象的なものでも良いです。この人物をできる限り鮮明にイメージしましょう。
- そして、その慈悲深い存在が自分の苦しみに寄り添い、思いやりのある言葉を投げかけているところを想像してみてください。言葉の内容だけでなく、声のトーンや抑揚、スピード、表情などもイメージしてみると良いでしょう。
- 最後にそのイメージを解き放ち、数回深呼吸をして、安心感や落ち着きなどが生まれてきていれば、その感覚と共に静かに座ります。
クリスティーン・ネフ (2014)セルフ・コンパッション : あるがままの自分を受け入れる p.129~p.130より一部改変して掲載
これは形式的には座って行いますが、状況的に難しい場合には立って行っても構いません。私が行う場合には、深呼吸をしてリラックスする→慈悲深い存在をイメージする→自分への思いやりを感じるという流れをで行っています。
数分で実践できて、取り組みやすい方法なのでとてもおススメです。
自分に手紙を書く
セルフコンパッションを高める方法としては、自分自身に思いやりの手紙を書くというものがあります。さらにワークを実践したい方は、参考にしてみてください。
具体的には、以下の3つのステップで行います。
ステップ①自分の不満に思う部分を考える
人は誰しも不完全であり、何か欠けている部分があります。そのことについて考えてみましょう。
例えば、容姿や仕事、人間関係について何か不満に思うことはないでしょうか?
不満に思う部分を考えた時どのような感情が沸き起こりますか?
感情を偽らないように自分に対して、できる限り素直に答えていましょう。自分の中の等身大の感情をありのままに感じていきましょう。
ステップ⓶慈悲深い友人を想像する
次に無条件に愛を与える全てを受け入れ優しく、慈悲的である架空の友人を想像してみましょう。
その友人はあなたの強さや弱さ、そして現在考えていること全てを見通すことができると仮定しましょう。
人間の能力の限界を認識していて、あなたに対して優しく思いやりに満ちています。
この友人はあなたの人生と、今のあなたを形作る無数の出来事を全て把握しています。あなたの欠点は、あなたの意志の外にあるものごとに起因しています。遺伝子、人間関係、家系など。
ステップ③友人の視点から手紙を書く
その友人があなたに対してどう感じているのか、そして不完全なあなたをどう励ましてくれるのかに考えてみてください。
その友人の気持ちになって、自責の念に駆られている自分に手紙を書いてみましょう。どんな言葉をかけるでしょうか。
手紙を書く時のポイントは、
- 幸福
- 思いやり
- 健康
- 受容
- 優しさへの願い
を織り込むようにして書いてみましょう。
書いたあとは、その手紙をしばらく放置して辛い時に心に染み込むまで読み込んでみてください。自分の中に慈悲、受容、思いやりが流れる込んでくるのを感じながら読みましょう。
他人の苦しみを思いやるワーク
自分と他人の境界線を緩めるワークとして、他人の苦しみを思いやるワークがあります。さらにワークを実践したい方は、参考にしてみてください。
まずは今の自分の苦痛や不安を感じてみましょう。
不安や、体の痛みや、怒り、失望や、自信のなさや、悲しみなど、自分が感じている苦痛を素直に見つめています。
次に、「こういう苦しみは人間なら誰でも経験するのではないだろうか」と考えてみます。
あなたと同じように痛みや、後悔や、悲しみや、不当な仕打ちや怒りや、恐怖を感じる辛さを身をもって知っている人がたくさんいます。
それでは、具体的に誰かのことを思い浮かべてみましょう。
あなたと全く同じ状況では無いにしても同じような苦しみやストレスを感じている人がいるはずです。
その人たちのことを考えて、自然と思いやりが湧いてくるのを感じましょう。
みんなそれぞれの状況でどんな思いを味わっているのか、そのことに思いを馳せるのです。
次に以下の文章を心の中で唱えてみてください。
わたしと同じで、この人も心と体を持っています。
わたしと同じで、この人も感情や思考もあります。
わたしと同じで、この人も大変な思いをして生きてきました。
わたしと同じで、この人も痛みを知っています。
わたしと同じで、この人も世の中の役に立ちたいと思っています。
わたしと同じで、この人も孤独で苦しんでいます。
この人が幸せでありますように。
まとめ
セルフコンパッションは、自分自身を大切にし、自己否定や自己批判から解放されるための重要な考え方です。
セルフコンパッションを実践するには、自分自身に対して理解し、受け入れ、思いやりを持つことが必要です。
具体的には、自分自身に優しく接し、自分自身を激しく責めたり、批判したりしないようにします。
セルフコンパッションを実践することで、ストレスや不安を軽減し、自己肯定感を高め、より幸福な人生を送ることができます。マインドフルネスを育むためにも、セルフコンパッションを積極的に取り入れていきましょう。
出典
- クリスティーン・ネフ 著, 石村郁夫, 樫村正美 訳(2014)セルフ・コンパッション : あるがままの自分を受け入れる 金剛出版
- ジョアン・ハリファックス 著, マインドフルリーダーシップインスティテュート 監訳, 海野桂, トランネット 訳(2020)Compassion : 状況にのみこまれずに、本当に必要な変容を導く、「共にいる」力
・マインドフルネスとセルフコンパッションの関係
・慈悲とセルフコンパッション
・セルフコンパッションのトレーニング