自分への思いやりという意味であるセルフコンパッションですが、先延ばしを防いだり自己批判を改善したり様々な効果があるとされています。
しかし、万能薬とも思えるセルフコンパッションですが、やり方を間違えると大きなデメリットを被ることもあります。
今回はセルフコンパッションのデメリットに焦点を当てて、正しく自分を許す方法について解説をしていきます。
Contents
セルフコンパッショのデメリット①誤解されやすい
セルフコンパッションの大きなデメリットとして、「誤解されやすい」というものがあります。
セルフコンパッションは直訳すると、自分への思いやりですが、意味を間違えるとかえって逆効果になることも少なくありません。
ここでは、よくあるセルフコンパッションの誤解についてあげていきます。
誤解1.セルフコンパッションは自分を甘やかすことである
セルフコンパッションは、「自分への思いやり」という意味で用いられるため、努力するなってこと?と考える人もいるかもしれません。
しかし、セルフコンパッションは言い訳をして、自分の至らない部分を正当化することではありません。
評価判断せず今の自分をありのままに受け入れ、自分の苦しみに気づき、それに対して必要な思いやりを持つことです。そしてここで言う思いやりとは、以下のようなことを指します。
- 必要な分だけ休息する
- 必要な分だけ食べる
- 必要な分だけ遊ぶ
- 現実的な目標を立てる
セルフコンパッションでは、自分の体に優しさといたわりを持って、日々の行動を行うことを大切にします。
例えば、甘やかしで食べる場合、ストレスに任せて大食いしてしまうかもしれません。しかし、食べ終わった後気持ち悪くなりますし、長期的には健康を害してしまいます。
これでは、本当の意味での自分への思いやりとは言えません。
今の自分の状態をつぶさに観察し、その時その時によって体や心にいたわりを持って、短期的にも長期的にもメリットになる行動を取るのがセルフコンパッションなのです。
誤解2.セルフコンパッションは自尊感情である
自尊感情は自分には価値があると思える状態のことです。セルフコンパッションの提唱者であるクリスティーン・ネフ(2014)[1]によれば、自尊心は「自分を有能だと思うこと」や、「他人からの称賛によって生まれる」と説明しています。
そして、この2つは仲間からの承認、他人との競争、学校や職場での成功、家族のサポート、神を感じることなどによって左右されると言います。
例えば、自分が仕事に価値を感じていたとして、仕事でもっとも成果を出せれば自尊心は大きく高まりますが、全く成果を出せなければ自尊心は地に落ちます。
へドニック・トレッドミル現象とは?
自尊心を追い求めることは、このように成功や失敗や勝ち負けといった概念にしがみつくことになります。これは、ギャンブルに似ており、勝てば自尊心が高まり快楽を得ることができます。
そして、一度成功した喜びが忘れられなくなり、より高い自尊心を得るために勝負を挑むという依存症のような状態になってしまうのです。これを心理学では、「へドニック・トレッドミル現象」と呼びます。
高い自尊心を維持し続けようとすることは、「結果を出さなければ自分はダメだ…」という恐怖心に駆り立てられるようになります。
自尊感情とセルフコンパッションの違い
一方で、セルフコンパッションは勝ち負けといった外側の概念に依存するものではありません。
人間誰しも長所もあれば短所もあることを認め、その時々によって「できたり」「できなかっリ」する移り変わる今この瞬間に意識を向けることです。
誤解3.セルフコンパッションはナルシシズムである
自分への思いやりに似た言葉に、自己愛があります。自己愛が強いナルシストの人たちは自分を好きで、自分は魅力的な存在であると考えています。
しかし、こちらも自尊感情と同じように、セルフコンパッションとは異なります。ナルシストは高い自尊心を持っています。
そのせいで、自分を過大にアピールしたり、他人を低く見たりなどをして、周囲から嫌われることもあります。また、自尊心を傷つけられた時には、
- 激怒する
- 過剰なまで報復する
- 攻撃的になる
などの危険性も持っており、人間関係でトラブルを抱えることも少なくありません。
一方で、セルフコンパッションは自分を高く評価することではなく、評価や判断を手放してあるがままの自分を受け入れ、今の自分に優しさを持つことです。
また自分と同じように他人も苦しんでいるんだ、と理解できるため周囲に対して攻撃的になることはありません。
誤解4.セルフコンパッションは自己憐憫(じこれんびん)である
自己憐憫とは、「周りから注目されたり、共感してもらったり、助けてもらったりすることを求めて自分の状況を哀れむ」を指します。自己憐憫は他人と比べて、自分の状況は悲痛なものだと考えることです。
自分だけが苦しいわけではない
一方で、セルフコンパッションは、自分は悲劇のヒロインであって、かわいそうな人間であると思うことではありません。
セルフコンパッションの源流である「慈悲」の悲(カルナー)は、
全ての生命を哀れむこと、すべての生命の苦しみを取り除いてあげたいと思うこと
を意味します。
自分だけが苦しい状態なのではなく、皆生きる上での苦しみを抱えて生きていると考え、そのうちの一人である自分に対して思いやりを持つのがコンパッションなのです。
苦しみは悲観的な見方ではなく、事実そのもの
自己憐憫で「自分はかわいそうだ」と思っている時は、苦しい状態を悲観的に捉えてしまいます。しかし、マインドフルネスや仏教でいう苦しみは、客観的な事実のことを指しています。
仏教では、苦しみのことを「不満足」という意味で用いられます。
そして、生きることは「不満」によって成り立っていると言います。例えば
- ご飯を食べても、またすぐにお腹が減る
- 飲み物を飲んでも、また喉が渇く
- お金を稼いでも、お金の管理が煩わしくなる
- パートナーができても、パートナーとの関係に悩まされる
このように、人生は不満を何とかしたいという衝動で生きているのです。しかし、満足は一時的であり、時間が経てばまた不満になってしまいます。
こうした生きていくうえで避けることのできない客観的な事実として苦と呼んでいるのです。
セルフコンパッションのデメリット②痛みをともなう
セルフコンパッションは、自分の弱さや今感じている苦しみを認める部分があるため、時として精神的な痛みをともなうことがあります。例えば、
- 夢への挫折
- 大切な人との別れ
- 大きな怪我
などを受け入れるのには、最初は大きな抵抗があるかもしれません。
ストレスに対処する「ストレスコーピング」の種類は世の中にいくつもあり、その中には「スポーツをする」「カラオケに行く」「友人と遊ぶ」などの気晴らし系のものもあります。
もし、ストレスが強すぎで、自分に優しさを持てないという場合は、無理にセルフコンパッションしようとするのではなく、一定期間、気を紛らわせるのも一つの方法です。
セルフコンパッションのデメリット③培うまでに時間がかかる
セルコンパッションは一朝一夕で、身につけられるようなものではありません。
- 評価判断しない
- 生きる上でみんな苦しんでいる
- 自分に優しくする
など言われても、すぐに身につけるのは難しいでしょう。
古くからの思考パターンや行動を変化させるのには、時間がかかります。
セルフコンパッションは身につければ、自分を責めなくなったり、視野が広がったり、自分の欠点を受け入れられるようになりますが、その過程で挫折してしまう方は大半です。
日々意識をして、自己批判が起きた時、他人と比較している時、自信過剰になってる時にセルフコンパッションのワークを実践して、繰り返し練習していく必要があります。
まとめ
セルフコンパッションのデメリットという切り口でお伝えしましたが、ここまで読んでわかる通り、セルフコンパッション自体は欠点が限りなく少ない概念であると言えます。
ただ、間違った方法でセルフコンパッションを実践すると、様々な問題が生まれてしまいます。セルフコンパッションを実践する際には、意味や定義を把握した上で行うようにしましょう。
また、セルフコンパッションは痛みを伴う危険性があるため、自分が落ち着ける安心できる時間や環境で行うようにしましょう。
・セルフコンパッションのデメリット
・セルフコンパッションにまつわる誤解
・本来のセルフコンパッションとは何か