マインドフルネスは近年注目を集めて精神的な健康法ですが、その科学的な根拠はどうなっているのでしょうか?
さまざまな研究結果を通じて、マインドフルネスがメンタルヘルスにどのような影響を与えるのかを見ていきましょう。また、本記事ではマインドフルネスの有害事象についても解説します。
マインドフルネスの科学的根拠を知りたい方は、ぜひ最後までお読みください。
Contents
マインドフルネスの科学的根拠とは
マインドフルネスはうつ病を和らげる
宇佐美ら(2009)[1]の研究では、266名の大学生を対象に、マインドフルネスが抑うつに与える影響について調査されました。その結果が以下の図です。
このように、マインドフルネスを行うことで、
・行動抑制
・行動始発
・注意
のコントロールが上手くなることがわかります。
具体的には、行動抑制の向上が抑うつ症状の減少に繋がることが分かりました。マインドフルネスの効果として、気分の落ち込みやメンタルヘルスの悪化を予防できる可能性が浮かび上がりますね。
ただし、別の研究では逆の結果も報告されており、既に深刻なうつ症状がある場合は、医師の指示に従って実践することが重要です。
不安が下がる
二宮ら(2019)[2]の研究では、MBSRと認知行動療法を組み合わせた「MBCT」が不安症状の緩和にどれほど寄与するかが調査されました。
研究には、パニック障害、広場恐怖症、社交不安障害の基準を満たす20歳から75歳までの40人が参加しました。
これらの40人はランダムに、MBCTグループとコントロールグループにそれぞれ20人ずつ分けられました。コントロールグループはMBCTを行わない場合と比較対照するためのグループです。
プログラムは毎週2時間のセッションで構成され、合計8セッションが行われました。プログラムでは、参加者は以下のマインドフルネスの実践を行いました。
・ レーズンエクササイズ
・ ボディスキャン
・ 静坐瞑想
・ 歩行瞑想
・ 3分間の呼吸法
・ 認知的アプローチ
さらに、毎日の宿題としてマインドフルネス瞑想をトレーニングし、その日の練習を日記にメモするよう依頼されました。
8週間後の結果は次の通りです。
このように、MBCTのグループでは不安感が低下していることが確認できます。
MBSRに認知行動療法を組み合わせることで、不安感の緩和が期待できそうです。
怒りが減る
さらに、マインドフルネスで無駄な怒りを抑えられることが分かっています。
金(2015)の研究[3]では、209名の学部生を対象に、「ディタッチドマインドフルネス」が「怒り反すう」に与える影響を調べました。それぞれ言葉の意味は以下の通りです。
・ディタッチドマインドフルネス
自分の状態を一歩引いて眺める状態
・怒り反すう
過去の体験を思い出し、怒っている状態
結果は以下のようになりました。
このように、ディタッチドマインドフルネスの得点が高いほど、怒り反すうが下がることが明らかになりました。自分を客観的に見つめることが、怒りを和らげる傾向があるようですね。
この結果から考えると、マインドフルネスは怒りの抑制にも一役買っている可能性があります。
日常生活で感じるイライラや怒りに対して、冷静になるための手段としてマインドフルネスを取り入れてみるのも良いかもしれませんね。
マインドフルネスは痛みを和らげる
Zeidanら(2015)[4]の研究では、75人の被験者を
- オーディオを聞く群(対象群)
- プラシーボ群
- マインドフルネス群
- 偽マインドフルネス群
の4つに分類し、これらのグループを比較してマインドフルネスが痛みの緩和にどれほど寄与するかを調査しました。
マインドフルネス群は、1日20分の瞑想トレーニングを4日間行いました。その結果が以下の図です。
このように、最も「痛みによる不快」が減少しているのはマインドフルネス群であることが分かります。
要するに、マインドフルネスはプラシーボよりも痛みを和らげる可能性があると言えます。
生活の質(QOL)が上がる
伊藤ら(2017)[5]の研究では、MBSRが生活の質(QOL)に与える影響を調べました。
この研究では、心身に疾患のある15名の参加者が対象となりました。その結果が以下のグラフです。
図を見ると、MBSRを行った後の方がすべての項目で向上していることが分かります。
ただし、この研究における懸念点は、MBSRにおいてグループディスカッションが講義に置き換えられているという点です。カバット・ジン博士は、グループでの議論がMBSRの重要な要素であると指摘しています。
したがって、この点に留意しつつ、ストレス・クリニックで行われているものと同じMBSRではないことを考慮する必要があります。
HSPに与えるのMBSRの効果
Soonsら(2010)[6]の研究では、MBSR(マインドフルネスストレス低減法)の8週間プログラムが、HSPにどのような心理的影響を及ぼすかを調査しました。
研究では、
- HSP傾向が高い47名を対象
- 1回2時間半のセッションを8回
行いました。
その結果、8週間のプログラム終了後に以下の効果が得られました。
・ストレスが減る
・対人不安が和らぐ
・マインドフルネスが高まる
・感情的共感が高まる
・自己成長主導性が高まる
・自己受容が高まる
・自己超越が高まる
stress (F = 94.11, p < .001),social anxiety (F = 86.89, p < .001), self-acceptance (F = 33.54, p <. 001), emotional
empathy (F = 21.25, p < .001), personal growth initiative (F = 10.25, p < .01), and selftranscendence (F = 14.04, p < .001).
上記の自己成長主導性は、「自分から率先して成長しようと」することを表します。
HSPの気質である共感力や自己超越(個人の境界線がなくなった感覚)などは、さらに向上しているもののストレスや対人不安は低くなっています。
つまり、HSPは繊細さのデメリットを軽減しつつも、より気質の特徴を生かすことができると言えそうです。またプログラム終了の4週間後も効果が持続していることもわかりました。
マインドワンダリングを下げる
さらにマインドフルヨガを行うことで、心ここにあらずの状態である「マインドワンダリング」が静まることが分かっています。
鈴木ら(2021)[7]の研究によれば、マインドフルヨガを実践することで、心があちこちにさまよっている状態である「マインドワンダリング」が静まることが明らかにされています。
この研究では、瞑想やヨガ未経験の女子学生8名が対象となり、マインドフルヨガの効果が調査されました。
ヨガプログラムでは、経験豊富なインストラクターの指導のもと、身体の動きに注意を向けながら、
- ウジャイ呼吸(呼吸法)
- 太陽礼拝(ヨガの実践)
を組み合わせた30分間のレッスンが提供されました。
その結果が次の図です。
ヨガ前とヨガ後を比較すると、ヨガ後の方が「マインドワンダリング」が減少していることが観察されます。
小規模な実験ではありますが、身体の動きに注意を向けながらヨガを行うことが、ぼーっとした状態を軽減し、マインドフルな状態を維持する効果があると言えそうです。
緊張を緩める
鈴木ら(2021)の同研究では、マインドフルヨガが緊張に与える効果も詳細に調査されました。
その結果が次のグラフです。
このように、ヨガ前とヨガ後を比較すると、ヨガ後の方が緊張覚醒が減少していることが分かります。
この効果は直感的にも理解しやすいですね。マインドフルヨガを行うことで、心と身体がリラックスし、緊張が和らぐと言えそうです。
特に忙しい日常やストレスの多い状況で、マインドフルヨガを取り入れることは、緊張を軽減し、心地よいリラックス状態をもたらすかもしれません。
コンパッションの効果
メンタルが安定する
クリスティーナら(2020)の研究[8]では、ドイツの大学生110名を対象に、「慈悲の瞑想」と「メンタルヘルス」の関係を調査しました。この研究では、110名の大学生を半分に分け、
・慈悲の瞑想を受ける群
・受けなかった群
を5か月間比較し、慈悲の瞑想の効果を調査しました。また、その後1年間のフォローアップを行い、長期的な効果についても調査されました。この研究では、
・うつ傾向
・不安
・ストレス
の3つの指標でメンタルヘルスを評価しています。それぞれの結果を見ていきましょう。
・うつ傾向の低下
まずは、うつ傾向との関係を見ていきましょう。結果は以下のグラフの通りです。
このように、慈悲の瞑想を行った群の方が、うつ傾向が低下していることがわかります。日頃から慈悲の瞑想を実践することで、気分の落ち込みを改善できると言えそうです。
・不安の低下
次に、慈悲の瞑想と不安との関係を見ていきましょう。結果は以下の通りです。
このように、慈悲の瞑想を行った群の方が、不安が少ないことがわかります。私自身も効果を実感しており、慈悲の瞑想を行った後は、とても不安感が少なくなると感じますね。特に不安で寝れない!という時は、おすすめですね。
・ストレスの低下
最後に、慈悲の瞑想とストレスとの関係を見ていきましょう。結果は以下の通りです。
このように、ストレスについても、慈悲を行った群の方が少ない値が報告されました。つまり、慈悲の瞑想を5か月間実践することで、長期的にメンタルヘルスが安定する可能性があると考えられます。
ウェルビーングを高める
水野ら(2017).[9]の研究では、関東圏の大学3校の大学生247名を対象に、セルフコンパッションがウェルビーイングにどのような影響を与えるかを調査しました。
その結果が以下の図です。
このように感情的なウェルビーイングと人生の満足感を獲得する上で、セルフコンパッションが非常に有効であることがわかりました。
クリフティーンネフ氏の著書の中でも、10年間の研究で、感情的ウェルビーングと人生の満足感を獲得する上で非常に有効であると述べられています。
その他の科学的根拠
Davis博士らの2012の記事[10]では、マインドフルネスのメリットがまとめられています。先ほど紹介したものと被るものありますが、より深く知りたい方は、下記を参考にしてみてください。
注意力と自己調整力の向上: 中国の大学生はマインドフルネス瞑想によって注意力、自己調整力、免疫反応性が向上し、うつ病や不安が減少 (Tang et al., 2007).
ストレスと不安の軽減: 医学生はマインドフルネスに基づいたストレス軽減トレーニングで不安や抑うつが軽減され、セラピスト訓練生もストレスと否定的な感情の減少を報告 (Shapiro et al., 1998, 2007).
忍耐力と意図性の向上: マインドフルネスは忍耐力、意図性、感謝性、身体認識の向上に寄与する可能性があり (Rothaupt & Morgan, 2007)、これらの要素はセラピストにとっても重要なスキルとなる。
心の知能指数と社会的つながりの促進: 対人関係のマインドフルネストレーニングを受けたカウンセラー研修生は、心の知能指数と社会的つながりが促進され、ストレスと不安が軽減される可能性があります (Cohen & Miller, 2009)。
共感の促進: マインドフルネス瞑想はセラピストに共感を高める効果があり、経験豊富な瞑想者はクライアントへの共感を育むと報告 (Shapiro et al., 1998; Aiken, 2006).
思いやりの向上: ストレス軽減トレーニングはセラピストのセルフ思いやりを高め、マインドフルネスの要素と共感の側面と関連していることが示唆されている (Shapiro et al., 2005; Kingzsbury, 2009).
生活の質の向上: 看護学生や大学生はマインドフルネス瞑想を受けることで生活の質が向上し、否定的な精神症状が減少した (Bruce et al., 2002; Cohen & Miller, 2009).
災害後のメンタルヘルスへの影響: ハリケーン・カトリーナ後の瞑想介入により、精神保健従事者のPTSDと不安症状が大幅に減少 (Waelde et al., 2008).
マインドフルネスのデメリットにまつわる科学的根拠
M. Fariasら(2020)[11]では、6,742 件のマインドフルネス研究から、瞑想有害事象を満たす83件の論文を特定し、マインドフルネスのデメリットを調査しました。
有害事象の主なカテゴリーとして以下の症状を挙げています。
- 不安
- うつ病
- 精神病
- 妄想症状
- 解離
- 恐怖
- ストレス
- 身体的な緊張
- 痛み
- 胃腸の問題
- 思考の混乱
- 健忘症
- 感覚過敏
こうしたデメリットは主に実践中に経験され、長期の効果はわずかでした。
瞑想リトリートへの参加がデメリットと関連している可能性があり、一部の研究ではリトリート経験者がより集中的な練習を行っていたことが分かっています。
デメリットを予防するためには無理せず、自分のペースで行うことが大切だと言えます。
これらの結果から、瞑想がさまざまな有害事象を引き起こす可能性があることが指摘されつつも、その影響には個人差があり、さらに詳しく調査をする必要が強調されています。
まとめ
マインドフルネスの科学的根拠は、多くの研究によって支持されています。
マインドフルネスの実践がうつ病の症状緩和や怒りを抑制、痛みの軽減や生活の質向上にも効果があることがわかっています。
ただし、個人差や注意が必要な事例もあるため、実践に際しては慎重なアプローチが重要です。
科学的根拠を踏まえつつ、自分のペースでマインドフルネスを取り入れ、心の健康を促進していくことが大切です。
・マインドフルネスの科学的根拠
・瞑想のメリット
・瞑想の有害事象