タラ・ブラック博士が提唱する「ラディカル・アクセプタンス」は、マインドフルネスと思いやりの実践を通じて、根本的に現状を受け入れる姿勢を指します。
本記事では、ブラック博士の著書『ラディカル・アクセプタンス ネガティブな感情から抜け出す「受け入れる技術」で人生が変わる』を要約していきます!
ラディカル・アクセプタンをより深く知りたい方はぜひ最後までお読みください。
Contents
ラディカル・アクセプタンスとは?
著者のタラ・ブラック博士は、ラディカルアクセプタンスを以下のように説明しています。
マインドフルネスと思いやりを開拓することこそが、私のいうラディカル・アクセプタンスなのです。(ラディカル・アクセプタンス ネガティブな感情から抜け出す「受け入れる技術」で人生が変わる,p14より引用)
マインドフルネスと思いやりは、鳥の両翼と呼ばれており、どちらか一方だけでは自由に飛び立つことができません。この2つを深めることで、ラディカルアクセプタンスが育まれていくのです。
またラディカル(radical)には、根本的、徹底的などの意味があります。つまり、マインドフルネスと思いやりによって育まれる「根本的な受け入れ」、という意味で捉えて良いでしょう。
マインドフルネス(明確な観察)
すでに知っている方も多いと思いますが、マインドフルネスは「今この瞬間の体験を評価判断せずに、ありのままに観察すること」です。
逃げだしたい考え
恐怖心
身体の震え
などのマイナスな経験であっても、変えようとせず、ただその経験に気づいていきます。今の体験をいい悪いと評価しないため、人生をあるがままに観ることを可能にします。
ラディカルアクセプタンスを行うには、「今、何を受け入れているのか」を明確に把握することが大切です。ハッキリと今の状態に気づくことで、その経験を素直に受け入れることができるのです。
思いやり
ブラック博士は思いやりを以下のように、説明していきます。
気がついたことに対して温かみのある思いで接することのできる私たちの力量
(ラディカル・アクセプタンス ネガティブな感情から抜け出す「受け入れる技術」で人生が変わる,p14より引用)
恐れや悲しみをなくそうとせずに、あたかも怪我をした我が子を母親が抱きしめるように、優しく今の経験に接するのです。
DBT(弁証法的行動療法)の定義
ラディカルアクセプタンは、DBT(弁証法的行動療法)で重要な概念とされています。このDBTの生みの親であるマーシャ・リネハンはラディカルアクセプタンスを以下のように説明しています。
ラディカルな受容とは、「コントロールされているという幻想を手放し、物事を判断せずに、現状に気づき受け入れようとする意欲」 にかかっています。それは「癇癪を起こしたり怒ったりすることなく、現実の事実をありのままに完全にオープンにすること」です。
ここでは、マインドフルネスと怒らない(オープンに接する)こという意味で伝えられていますが、本質的には「マインドフルネス」と「思いやり」を育み、現実に対してオープンに接することという意味で考えてよいでしょう。
タラ・ブラック博士が抱えた自己批判
精神修行に打ち込むも自己批判が消えない
ブラック博士は、大学生時代「自分は根本的にダメな人間」だと思い込み自分を直そうと必死に暴き続けていたそうです。
結果への執着心や食べ物への依存で、心の奥の痛みを避け続けていたと言います。
他人をがっかりさせてしまうのではないか。誰かに嫌われるのではないかと日々恐怖を感じながら過ごしていたそうです。こうした自分への厳しさから
- もっと自分に優しくなりたい
- 自分の内面を深く知りたい
- 周囲と親しい人間関係を築きたい
という切なさでいっぱいになったと言います。こうした気持ちから、ブラック博士は大学卒業後アシュラムという寝起きをともにし、精神的な修行を行うグループに参加し、12年近く、その生活を続けました。
瞑想やヨガ、お唱えや祈りなどを朝の4時から6時半まで行い、朝食の時間になる頃には幸福感や一体感で満たされていたと言います。
しかし朝食が終わる頃には、また自己批判的な思考パターンが生まれ、大学生時代のように「自分はダメな人間なのだ」という思考にかられてしまったと。
こうしたグループで修行している中で、心の中にいる評論家が自分や他人を評価し、いつも寂しく孤独感に苛まれていたと言います。
常に何かが足りないという思い込み(トランス)
ブラック博士は、現在は仏教の教師・心理学者として活動しており、過去20年間にわたり「自分はダメな人間」という信念を抱える何千人もの人たちと接してきたそうです。
ブラック博士は、こうした思い込みを「トランス(催眠状態)」と呼びました。トランスは完璧主義につながり、何があっても足りない…という気持ちにつながってしまいます。
その結果、
- 白髪を隠す
- 美容整形を行う
- 昇進を狙い続ける
- 完璧なボディを追求する
- 資格を取る
- ボランティアに参加する
- ワークショップに参加する
終わりのない自己啓発の蟻地獄にハマってしまうのです。
もちろん、上記がすべて悪い事ではありませんが、完璧な理想像と今の自分を比較しつづけると、自己批判から抜け出そうとして、さらに自己批判に陥るという負のループに陥ってしまいます。
こうしたトランスの抜け出し方として提案されるのが、「ラディカル・アクセプタンス」なのです。
ラディカル・アクセプタンスのやり方
ラディカル・アクセプタンスのやり方は、さまざまですが、前述の通り「マインドフルネス」と「慈悲」を育むことで自然とできるようになります。
ただこれだけだと、ざっくりしすぎなので著者の中で、提案されている方法を2つ解説していきます。
まずは「間」を取る
マインドフルネスと思いやりを実践する上で、ブラック博士がなんども著書の中で繰り返しているのが、「間」を取ることです。
間を取るということは、
- 今行っている行動や思考などをすべてやめ、すべての意識を今に向けること。
普段行っている行動をする前に、数秒でも間を取ることが大切です。
これによって、今まで見えていなかった選択肢が見えるようになったり、感情に飲まれる前に気づくことができたりと、ラディカル・アクセプタンスを行いやすい状態が生まれます。
著書では間を取ることが、ラディカル・アクセプタンスの入り口だと紹介されています。
ボディスキャン瞑想
体の感覚に敏感になることは、ラディカル・アクセプタンスの基礎です。快不快といった体の感覚は、すぐに思考や感情を生み出し、無意識に連鎖反応を起こします。
そこで思考や感情とともに体の感覚に気づくことで、より深いマインドフルネスの練習に繋がるのです。
一瞬一瞬に「はい」という
個人的にもっとも刺さったポイントが、ガイド瞑想として紹介されていた「はい」のパワーという項目です。このワークを簡単に解説すると、以下の6つのステップになります。
- 辛い出来事や体験を思い出す
- 生まれてくる感情や思考、身体反応に
「ダメ」と言い続ける - 数時間、数週間、数か月
これを続けたらどうなるか考える - もう一度辛い出来事や体験を思い出す
- 生まれてくる感情や思考、身体反応に
「はい」と言い続ける - 数時間、数週間、数か月
これを続けたらどうなるか考える
はい、という時のポイントは以下の通りです。
この練習に対して否定的な「ダメ」という気持ちが浮かんできても構いません。これを「はい」というより大きな感覚で受け止めてみましょう。痛みに「はい」、その痛みが消えてしまえばよいのにと思う自分に対して「はい」。どんな思考や感情が浮き上がってきても「はい」と優しく言い続けてみましょう。「はい」と言い続けるとどう感じますか? 自分の中で柔らかく、何かが動いて開いていくような感覚がありますか?
(ラディカル・アクセプタンス ネガティブな感情から抜け出す「受け入れる技術」で人生が変わる,p117より引用)
これは、「自己批判の悪影響」と「セルフコンパッションの効果」をかなり体験的に理解できるワークだと感じました。
まとめ
「ラディカル・アクセプタンス」は、マインドフルネスと思いやりを両翼とし、現状のどんな体験にも抵抗せずに受け入れる技術です。
また、選択肢を見つけるために「間」を取る重要性も強調されています。間を取ることで、自分の状態に気づき、思いやりを育むため余白を生み出すことができます。
ブラック博士のメソッドを通じてセルフコンパッションを培うことで、自己批判から解放され、さらにマインドフルネスを深めることができるでしょう。
・アクセプタンスの2つの要素
・トランス(催眠状態)の悪影響
・ラディカル・アクセプタンスのやり方