・やる気の正体が分かる
・やる気とマインドフルネスの関係が分かる
・やる気でない状態は存在しない
マインドフルネスはやる気・モチベーションを下げるという懸念がなされていますが、反対にやる気を高める効果あるとも言われています。
今回は科学・仏教の視点から、マインドフルネスとやる気の関わりについて解説していきます。
やる気の正体について理解することで、物事を淡々進められるようになりますよ!
Contents
マインドフルネスでモチベーションは下がる?
マインドフルネスは仕事のモチベーション下げる
Andrewら(2018)[1]の研究では、5つの実験と2つのメタ分析によって、マインドフルネスが将来のタスクへのモチベーションやパフォーマンスにどのような影響を与えるか調べました。
実験で行われたタスクは、アナグラムを完成させる等を行いました。
アナグラムとは、ある言葉の並びを変えて、別の言葉に変える言葉遊びのことです。
例えば、「Tokyo(東京)→kyoto(京都)」といったような感じです。
その結果、
- マインドフルネスは仕事のモチベーション下げるが、パフォーマンスは下げない!
ということが示唆されました。
マインドフルネスは”今ここの体験をあるがままに受け入れる”実践です。
一方でモチベーションの根源は、今ここにないものを追いかけることであり、この点でお互いが相殺し合うではないかと考えられています。
マインドフルネスは「自律的動機づけ」を高める
James Nら(2019)[2]の研究では、89件の関連論文を分析し、マインドフルネスと動機づけの間にどのような関係があるかを調べています。
その結果、マインドフルネスは、
- 自律的動機づけを高める!
ということが分かりました。
自律的動機づけの意味を理解するには、まずは「動機づけ」の種類を知ることが必要です。
動機づけは大きく以下の2つに分けられます。
・外発的動機づけ
→お金や名誉など外側の結果を求める。
・内発的動機づけ
→達成感や充実感など内側の結果を求める。
そして、外発的動機づけは、以下のさらに4つに分けられます。
・外的調整
→報酬や罰、人から言われたからやるなど外的なものによる動機づけ
・取り入れ的調整
→羞恥心などによる動機づけ
(例:人前で話すのは恥ずかしいから避ける)
・同一化的調整
→外部からの指示に自分なりに価値を見出すことによる動機づけ
(例:勉強はやりたくないが、確かに有用だ)
・統合的調整
→外部からの指示を自分の内的な価値観と結びつけることによる動機づけ
(例:勉強をすることで、視野が広がって面白い)
このうち外的調整→統合的調整の順で、自ら進んで行う度合いが高くなります。
そして、自律的動機づけとは、
「内発的動機づけ」
「同一化的調整」
「統合的調整」
の3つが合わさった概念になります。
つまり、マインドフルネスを深めることで、達成感・充実感・意義など感じられる活動へのモチベーションは高まると言えるでしょう。
一方で、罰や報酬、恥をかきたくないといった外発的動機づけは低下すると言えそうです。
私利私欲のやる気は消える
意義や充実感、達成感などは、基本的には「自分や他人の役に立っている時」に感じられます。
例えば、
・部屋の掃除をサボらなかった
・今日は手抜きなく仕事をした
・健康的な食生活を送れている
などです。
心理療法ACTの生みの親であるラス・ハリス博士も、自分の価値に基づいてマインドフルに行動している時に犯罪行為をすることはまずありえないと述べています。
自分の利益だけを求めて他人を害することは、大切なものから目を背けたい気持ちか、衝動的行動している時だと言います。
「おいしいから食べる」
「楽しいからゲームをする」
といった欲求も内発的動機づけですが、単純に衝動に突き動かされて行動することはなくなるでしょう。
やる気がない状態は存在しない
ここまではやる気がない状態がある前提で話しを進めてきました。
しかし、本質的な意味で考えれば、やる気がない状態は実は存在しないのです。
やる気とは、「何かをしたい」という気持ちです。そして、何もしていない時間はなく、人は何かを”し続けて”生きています。
- 瞬きをする
- かゆくなったらかく
- 歩く
- 座る
- 寝る
- 指で画面をスクロールする
など、すべての行動をしている時にやる気は働いています。つまり、生き続けたいと思っている以上、本質的な意味では「やる気」がない状態はないのです。
問題なのは、「何をやりたくないか」と「何をやりたいか」です。
やる気がない(やりたくない)状態とは、何か別のことをやりたい状態なわけですね。
例えば、
・勉強のやる気がでない→ゲームやりたい
・仕事に行きたくない→ずっと寝ていたい
・運動に身が乗らない→ゴロゴロしていたい
やや大雑把な解説ですが、やる気がない状態は上記のように「理性」と「感情」の葛藤ともいえます。やる気を理性側につけるか、感情側につけるかの違いなのです。
私利私欲を追うと、大事なことへ向かうやる気が下がる
仏教ではやる気のこと「意欲(チャンダ)」と言います。
意欲は感情(貪瞋痴)をベースにするか、理性や思いやり・慈悲喜捨をベースにするかによって、良い結果になるか、悪い結果になるかが決まります。
感情側にやる気をつけると、理性的な活動へのやる気が失われます。
その結果、
後悔することになる
人間関係が崩壊する
健康を害する
などの悪い結果に繋がります。
自分や他人の役に立つ行動よりも、衝動や怠け心、怒りに突き動かされて行動してしまうのです。
つまり、
- 私利私欲を追いかけることが、やる気低下の原因
なのです。そして私利私欲のやる気はマインドフルネスを実践することが消えていくと考えられます。
もちろん、金を稼ぎたい!マイホームを建てたい!夢を掴みたい!という希望を持って成功する人も少なくありません。
しかし、大きな成功を収められたのは、欲を控えて理性的に必要な行動を起こした結果だと言えるでしょう。
害のないやる気を持つことが大切
怠けを克服する
先ほど感情的(貪瞋痴)なやる気を起こすと、悪い結果になると説明しました。やはり害のないやる気は「充実感」や「達成感」などをベースにするやる気です。
しかし、人間は感情の方が強力なエネルギーを持っているため、つい私利私欲の方へと意識が向いてしまいます。
結果的に、理性が感情に負けてしまい、やる気がなくなってしまうのです。
そこで「自分の怠け心」を克服する!という目標を立てると良いでしょう。
・1ページ勉強する
・1回だけスクワットする
・1分だけ仕事する
などほんの少しでも誘惑を乗り越えることができたら、「充実感」や「意義」、「達成感」を得られるはずです。
やる気が出ない場合は、怠け心に流されてしまっていることがほとんどです。怠け心を克服することができれば、やる気の問題はすべて解決できるでしょう。
智慧(理解力)を育てる
やる気が出ない場合は、バイアスがかかっており、ありのままに物事を観ることができていません。
例えば、大学に合格したければ「勉強」しなければなりません。
しかし、それ頭でわかっていも、気持ちや「遊びたい」「テレビみたい」「漫画読みたい」などの誘惑に負けてしまうのです。
仏教ではこうした感情に支配されて誤った行動をしてしまうのは、人間に「無知」があるからだと説いています。無知とは、以下のような意味があります。
正しく物事を判断することができない状態。真理を知らない状態。
これに対して、物事を正しく理解できる、判断できる状態を智慧と言います。
智慧が現れると、感情的な衝動に流されにくくなり、必要な行動を率先してできるようになります。
今何をするべきか、その場その場で的確に判断できるようになるのです。智慧はマインドフルネス瞑想やヴィパッサナー瞑想などの観察瞑想をすることで、徐々に育まれていきます。
やる気・モチベーションに左右されずに行動する
やる気は一定しないのが普通
マインドフルネスは充実感や達成感などへのやる気を高めることをお伝えしましたが、人の気持ちコロコロ変化するものです。
ずっと一定しているわけではありません。
そのため、最終的にはやる気に左右されずに行動できるようになることが大切です。
物事に一喜一憂せず、淡々と進めていると、安定して着々と物事を進められるようになります。
マインドフルネスを深めることが大切です。目の前の状況をジャッジしない、良い悪いなどの評価やを判断しないことで、「嫌なことであれ良いことであれ」淡々と物事を進められるようになります。
体を動かすと心も動く
しかし、マインドフルネスで淡々と継続できるようになるには、ある程度の時間が必要です。
それまでは、怠け心と葛藤しなければなりません。
この時に役に立つのが、
「まずは体を動かしてみる」
ことです。体を動かすというのは、実際に作業に取り掛かることでもよいですし、運動などをすることも含まれます。
まずは短い時間でも作業に取り掛かることで、物事への意欲が湧いてくることがあります。
また体を動かすことで、心拍数が速くなり心も活発になっていきます。さらに意識が「思考モード」から「行動モード」に切り替わるため、目の前の作業へのやる気も高まるでしょう。
瞑想の実践だと思ってやる
瞑想は座って行うイメージが強いですが、日常生活などの場面でも実践できます。
仕事中であっても、気づきを向けながら仕事をすれば立派な暝想になります。
やる気が出ない・・・と感じている活動を「瞑想の実践」として行うと、自律的なモチベーションが生まれます。
先ほどご紹介した怠けを克服する!を目標にするという話しにも類似しますが、瞑想として取り組めば、その活動は、
「感情に流されない心を作るための活動」
になります。
例えば、勉強や仕事をすると同時に、怠け心や怒りなどの私利私欲も減らすことに繋がります。
そしてそれは、智慧や理性を育てることになり、人生全体の苦しみを手放すことに繋がります。
このような前提で仕事や勉強に取り組むことで、目の前の活動に意義が生まれ、自律的なやる気が生まれてくるのです。
まとめ
マインドフルネスは仕事のモチベーションを下げるという説もありますが、実際には以下のやる気が低下すると言えるでしょう。
外発的動機
・地位、お金、名誉
(社会が価値を置いているもの)
・罰を受けたくない
・恥をかきたくない
内発的動機
・衝動的なもの
そして、自律的動機付けである、
・充実感
・達成感
・自分が価値を置いているもの
についてのやる気は高まると言えそうです。私利私欲を追うことは、一時的にやる気が高まっても、長続きしないため注意が必要です。
また私利私欲があまりにも強いと、夢想家になって現実的な行動を起こさなくなり、その欲が満たされることがないでしょう。
やる気を持つなら害のないようにし、最終的には感情に左右されず、淡々と行動することが大切です。