近年ではマインドフルネスが脳に与える影響についても、科学的な研究が進んでいます。実はマインドフルネスを実践することで、脳の構造や機能が実際に変化することが分かっています。
今回の記事では、マインドフルネスが脳に与える影響について、最新の研究結果を踏まえながらまとめていきます!
Contents
科学が証明するマインドフルネスによる脳の変化
マインドフルネスを実践することで、脳の様々な部位に変化が起こることが、様々な研究で報告されています。
灰白質の増加
Hölzel BKら(2010)研究[1]では、MBSRを修了した参加者の、灰白質の増加が、さまざまな脳領域で認められていました。
灰白質(かいはくしつ)は、学習と記憶、意思決定、感情調節に関わる重要な脳組織です。下記の濃いグレー色の部分が灰白質です。
画像出典:Wikipedia
とくに左海馬の灰白質は、まるで脳内司令塔。神経細胞の細胞体が集結し、感情という名の指令を統率しています。ポジティブ、ネガティブ、様々な感情のスイッチを操り、私たちの心の舵を取っているのです。
そのため、灰白質の量と密度が増加することは脳にとってプラスであると考えられています。
島皮質の増加
Siew, S., Yu, J.(2023)の研究[3]では、11の研究(合計581人の参加者)を調査した結果、
マインドフルネスを実践することで、島皮質が増えていることがわかりました。下記の緑色の部分が島皮質です。
画像出典:Wikipedia
島皮質は、以下を含むいくつかの重要な機能に関わっています。
・痛みを感じる
島皮質は、痛みを感じ、処理する役割を果たします。この結果から、マインドフルネスは痛みの管理に役立つ可能性が考えられます。
・注意を集中する
島皮質は、注意を集中する役割も果たします。これは、マインドフルネスの実践が集中力や注意力向上につながる理由を説明する可能性があります。
つまりマインドフルネスを実践することで、痛みの改善や注意集中力向上に繋がると考えられるでしょう。
注意と思考のバランスが整う
Bremer, B.ら(2022)の研究[4]では、健康な成人46名を対象に、31日間のマインドフルネス瞑想トレーニング、または健康教育プログラムに参加してもらい、安静状態の脳活動をfMRIで測定しました。
その結果、
- 過去や未来への思考に関わる「デフォルトモードネットワーク(DMN)」と、
周囲への注意に関わる「セイリエンス・ネットワーク(SN)」の接続性が増加していました。
脳には、内向的な思考に関わる「DMN」と、周囲への注意や感覚処理に関わる「SN」という2つの重要なネットワークがあります。
マインドフルネス瞑想を習慣化すると、この2つのネットワークの連携が強化されます。まるで、車のアクセルとブレーキのバランスが絶妙になるように、内向的な思考と外界への注意のバランスが整い、集中力や感情調節が向上します。
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実行機能が向上する
Teper R, Inzlicht M. (2013)の研究[5]では、経験豊富な瞑想者 20 人と瞑想未経験者 18 人を対象に、ストループ課題で実行機能とマインドフルネスの関係を調べました。
実行機能とは、目的を持つ一連の活動をうまく行うために必要な脳機能のことです。
ストループ課題とは、2つの要素を含む刺激に対して、どちらか一方の刺激に注意を向けさせる認知課題の1つです。たとえば、「あか」という文字を青で見せ、文字ではなく文字の色を問う形式などがあります。
あか
その結果、マインドフルネスには以下の
・エラーの減少
集中力が高く、ミスが少ない
・エラーに対する迅速な反応
エラーに気づき、修正する能力が高い
・感情への適切な対応
感情に振り回されることなく、冷静に対処できる
こうした特徴は、脳波の分析によって明らかにされています。具体的には、エラー発生後に生じる脳波「エラー関連の否定性 (ERN)」の振幅が大きいことが分かっています。
ERN は、エラーした時のドーパミンの変化を反映すると考えられる電気生理学的マーカーです。その振幅が大きいほど、エラーに気づきやすく、修正しやすいと考えられています。
前頭前皮質の機能が向上する
Rathore Mら(2023)[6]は延べ664人を対象とした29件の研究を調べ、さまざまな瞑想方法が前頭前皮質に与える影響を調べました。この研究では、
- マインドフルネス瞑想
- オープンモニタリング瞑想
- 慈悲の瞑想
などの様々な瞑想と前頭前皮質の機能との関連についてまとめました。前頭前皮質は人間の思考や行動をつかさどる重要な脳の領域です。
研究の結果、すべての瞑想で前頭前皮質の機能が向上することが確認されました。
例えば、マインドフルネス瞑想では、注意を向ける力を高める前頭前皮質の領域が活性化が報告されています。
また、オープンモニタリング瞑想では、過去の記憶にとらわれず、今この瞬間に注意を向けられるようになることが確認されました。
慈悲の瞑想では、幸福感や思いやりなどのポジティブな感情を育むことが知られていますが、研究ではこのような慈悲瞑想を行うことで、前頭前皮質の一部が活性化することが報告されています。
後帯状皮質の活動が低下
Namik Kirlic(2022)[7]は、感情調節障害を持つ思春期のを対象に、マインドフルネストレーニング(NAMT)の効果を調べました。
34名の思春期者を対象に、NAMTと観察のみの条件を比較しました。NAMTは、fMRIを使って、後帯状皮質の活動をリアルタイムでフィードバックするものです。
その結果、NAMTのトレーニングを行うことで、後帯状皮質(こうじょうたいひしつ)の活動が低下したことが分かりました。
後帯状皮質は、思考や自分に関する記憶、情動などに関わる脳領域です。以下の図の緑色の部分が後帯状皮質です。
画像出典:Wikipedia
このトレーニングによって、参加者は後帯状皮質の活動を意図的にコントロールできるようになり、その結果、感情調節能力が向上すると考えられています。
マインドフルネス研究の懸念点
マインドフルネスと脳の変化に関する研究にはいくつかの限界があります。
- 参加を希望した人を対象としており、瞑想の効果を特定することが困難。
- サンプルサイズも比較的小規模。
- マインドフルネスとストレス軽減の研究に参加するという行為自体が、
結果を歪める可能性がある。
つまり、発見自体が間違っているわけではないかもしれませんが、一般の人口には当てはまらない可能性があるのです。
マインドフルネス研究自体も研究の歴史が比較的浅いため、大きな結論を出すためには、今後さらに深く調査をしていく必要があるでしょう。
なぜマインドフルネスで脳が変わるのか?
かつて脳科学では、脳の成長は幼少期でほぼ終了し、成人後は変化せずに衰えていくものと考えられていました。
しかし、近年、神経画像技術の発展により、脳は変化する力を持っていることがわかりました。その変化を促進する鍵となるのが
- 神経可塑性(しんけいかそせい)
です。
神経可塑性とは、脳が経験や学習によって構造と機能を変化させる能力を指します。脳内の神経細胞は、常に新しい接続を作り、古い接続を削除しています。
この変化によって、脳は、
- 新しい情報を取り込み
- 新たなスキルを習得する
- 環境に適応する
などができるようになります。
マインドフルネスを通じて、繰り返し今この瞬間に意識を向けることで、脳に新しい接続を生み出すことができるわけです。
世界的に有名な神経科学者のリッチー・デビッドソン博士によれば、
瞑想による脳の構造の変化は、人間の脳の可塑性の程度を浮き彫りにするため、常に魅力的な可能性であった
と主張しています。
マインドフルネスを継続するには?
マインドフルネスの効果を実感するためには、継続的な実践が不可欠です。
しかし、忙しい現代社会において、毎日時間を取るのは難しいと感じる人も多いでしょう。
ちょっとした工夫で習慣化
マインドフルネスは、特別な場所や時間を確保しなくても、日常生活の中に簡単に取り入れることができます。例えば、以下のような方法がおすすめです。
- 食事を味わう時に、五感を使ってゆっくりと食べる
- 歩いている時に、周囲の景色や音に意識を向ける
- 呼吸に意識を向け、ゆっくりと深呼吸をする
- 怒りや不安を感じた時に、その感情を客観的に観察する
これらの方法は、ほんの一例です。自分に合った方法を見つけて、日常生活の中に少しずつ取り入れてみましょう。
コミュニティに参加
瞑想を継続するためには、マインドフルネスを実践している仲間と交流できるコミュニティに参加するのもおすすめです。
私自身、マインドフルネスを7年間継続してきましたが、やはり瞑想クラスに入って実践している時の方が実践できることが多かったです。また、同じ目標を持つ仲間と体験談を共有することで、
- 気づきの発見
- 新しい視点
の獲得などが期待できます。
瞑想は日々の積み重ねが重要です。気持ちが落ち込んだ時やモチベーションが下がった時に、仲間からの励ましは、継続する大きな力となります。
習慣化のコツを学ぶ
瞑想の習慣化にはいくつかのコツがあります。具体的には、
- 小さく始める
- 座る瞑想以外から始めてみる
- 習慣と結び付ける
- 起きた直後にやる
- 問題を片づけながら行う
などが挙げられます。こうした習慣化のポイントを抑えることで、瞑想を継続するハードルが下がり、脳に変化を与えるために必要な期間まで実践しやすくなります。
瞑想の習慣化のコツについて詳しく知りたい方は以下をご覧ください。
まとめ
繰り返しマインドフルネスを実践することで、脳にポジティブな変化を与えられます。
もちろん、マインドフルネス研究はまだ歴史が浅いですが、神経可塑性の視点から見ても、瞑想の練習を積むことで脳が変化する可能性があることは十分に考えられるでしょう。
またストレスを受け続けると、海馬が萎縮するという研究もあります。マインドフルネスによって、灰白質などの海馬の増加など、ストレスが和らぐことで脳にさまざまな良い影響が起こるのかもしれません。
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